「君たちは、どうかして生まれてきてしまいました。この問題をこれから、解決しなければいけません」
男は物腰柔らかく壇上から述べる
有孔ボード張り巡らされた部屋の中、声がいやによく通る…たしか、六車とか言った気がする
「冒頭も申し上げましたが、わたしの名は六車ではありません。よく間違えられますがね」
走った勢いで尻から逃げおおせたおならみたいな笑いが方々で起きる
男はしかし決して名乗ろうとはしなかった
「君たちの中にですよ、薄汚くチンケな泥棒がいる事は確かです、決して信じたくはありませんが。罪を認め、心改める腹づもりでしたら、どうぞその旨を申し出なさい」
男は踵を一度コツリと鳴らし、そして人差し指を顔の前にヌッと突き出した。他人のためと嘯きながら自分だけのために祈る男の緩慢な動作だ
「しかし皆の手前、申しづらいことも承知しています。ここはひとつ、夢の中でどうですか?そこで耳打ちしてください」
のちに彼をベーコンにした男が私に耳を寄せ呟く「あいつをベーコンにしたらさぞ美味そうだ…ベーコンてのは無闇に脂が乗ってりゃいいってもんじゃねえ」
酷い口臭にのけぞる。ココアとタバコだけで朝を済ませたような臭いだ
消しゴムを落としたフリをして机の下にかがみこんだ
教壇のやつが何かの勢いを受けて飛び散ったのはその瞬間で…わたし以外のものは眼鏡や衣服に飛び散った血痕と肉片に不快な表情を包み隠さない
わたしは彼に芙蓉蟹の作り方を教わりそびれたことに思い至り、小さく舌打ちをした
口中はかすかに桜に燻されたような香りがした