青春時代を過ごしたライブハウスが閉店するとの報を受ける。
驚かない。いや、驚くまで、忘れていた。人は生きている。あの場所でも、この場所でも。
それを忘れていた。
ガタついた網戸を潜り抜けて、小さな羽虫が入り込む。
まあいい、どうせどこかで死ぬだろうと思い、打ちやっておく。
平静を纏って、残酷さがみょうと鳴く。
移動すると世界は広がる。形状を記憶する透明な風船に囲まれた私の世界は、歩いた足取りに沿ってどんどんと歪に膨らんでいく。もうすでに、両手で掬いきれないほどたくさんの人々と出会った。
多分誰一人、どうすることもできず、指の股からさらさらと零れ落ちる、細かく光を返す砂を観るような心地で沢山の悲しい知らせを眺めている。
ああ。ああ。
私は今までたくさんの人々に助けられた。
助けた覚えは、まるでない。
ここで人の形に掘られた穴にすっぽりとおさまることと、手を打って迎えられる立派な塚を拵えることと、どちらがどうか、私はよくわからない。
平静を纏って、残酷さがみょうと鳴く。
またあれに乗るのか。
誰かが指を差す。私を嗤う人もいる。
そしていつの間にか、彼女たちの傍らにあった者たちは行方がわからなく…
仕方なしにおさめることもできなくなった爪。
迷い込んだ羽虫にしてきたような仕打ちを、やめてみたいものだな。